口腔ケアのお話

・歯の清掃をする上での注意点!

歯の出っ張っているところは磨きやすいですが、肝心な磨き残しやすい場所(3大不潔域)がしっかり磨けるかどうかがポイントです。この場所を意識して磨いて下さい。
<3大不潔域>
 1.歯と歯の隣接面
 2.歯と歯茎の境い目
 3.歯の噛み合わせの溝
むし歯や歯周病にならないために、お口のお掃除をする上で、歯磨きは基本中の基本です。しっかりと身につけて、お口の悩みとおさらばしましょう。

・歯ブラシ

brush_name

歯ブラシにもさまざまなデザインのものがあります。お勧めしている歯ブラシはごく普通の形のもの。だいたい上の前歯2本分くらいの幅の植毛サイズが、その人にとって磨きやすいサイズと言われています。

毛の硬さは一般的には普通が良いとされています(最近、違った傾向も見られます)。

そして、歯磨きで大事なのは、「つま先」「かかと」「毛の脇腹」です。新品時に比べて毛がケバケバしてきたら、大事な部分があまり使えなくなっている可能性大です。早めに歯ブラシを買い替え、交換しましょう。

・歯ブラシの持ち方

pen_grip

歯ブラシの持ち方は、「鉛筆持ち」が小回りが利きやすく、いろいろな方向に向けられるため良いと言われています。色々な磨き方があって、きちんと磨けていれば磨き方を変える必要はありませんが、もしもうまく磨けないときは一度試してみてはいかがでしょうか?何事も慣れるまでは時間がかかりますが、是非ともチャレンジ下さい!

・歯ブラシの当て方

scrub_method

基本は歯の面に対して垂直に毛先を当てる、スクラビング法という磨き方が一般的です。歯の先の方だけでなく、歯と歯ぐきの境い目のところまでしっかり磨きましょう。歯の内側(舌側)の面など、当てにくい場所は45°程度で歯ブラシを当てると磨きやすいでしょう。その時も、歯と歯ぐきの境い目をしっかり磨くことを意識しましょう。

・歯ブラシの動かし方

歯を磨くとき、面倒くさいのでつい力が入りがちになりませんか?歯を磨くときの力は200g程度が良いと言われ、これは意外と小さな力です。また、歯ブラシを左右に動かすストロークは小さめが良いです。細かく動かしましょう。これは、その方が歯ブラシの届きにくい、凹んでいるところにブラシが入ってゆくからです。一撃の力よりも、数で稼ぐ磨き方をしてみてください。時間はかかりますが、きっと汚れが落ちたことを実感できるはずです。

・歯を磨く順序

歯を気になるところから好きなように磨くと、必ず磨き忘れるところが出てきます。お薦めは、例えば上の歯の奥歯の端の外側から磨き始め、そのまま連続的に前歯を通り、又奥歯へ向かい・・・端までいったら今度はそのまま内側を磨き始め、又前歯を通り、奥歯へ・・・端までいったら、今度はかみ合わせの面を再び端から磨き始める・・・といった「一筆書き」の磨き方です。上が終わったら下の歯も行います。こうすると磨き忘れがないので、お薦めです。

・特別な磨き方

tatemigaki

歯の裏側など、横には磨きづらいところ、でこぼこしているところなどは、歯ブラシ自体を縦に当て、縦に磨いてみましょう。

・電動歯ブラシについて

電動歯ブラシや音波歯ブラシも近年は大きく進歩し、人の力で磨くよりも効率よく歯の汚れを落とすことが宣伝されています。効果的に使える方、ご自身での歯ブラシの使い方に自信がない方には効果的な道具といえるでしょう。

・歯磨き粉(歯磨剤)

歯磨き粉は、歯磨きの際にスーッとした清涼感を与えてくれ、爽快感を得ることができますが、じつは磨けていないところも磨いた気になってしまう副作用もあります。歯磨き粉はなみなみとつけすぎず、小豆大程度の大きさまでにしましょう。歯磨き粉の中には、その種類によっても発泡剤、殺菌剤、研磨剤など様々な成分が配合されていますが、多くの歯磨き粉に含まれる大事な成分に「フッ素」があります。「フッ素」は歯の表面に直接働きかけ、歯の表面の虫歯になりかけたところを元に戻しやすくするだけでなく、歯の表面をむし歯になりにくい構造に変化させることができます。

・デンタルフロス(糸ようじ)

dental_fross1 dental_fross2

お隣の歯同士が接しているあたりの、引っこんでいるところは磨きづらいものです。ましてやちょうど接しているところには歯磨きを当てることはまず無理です。この部分はむし歯の好発部位で、むし歯になりやすい方は特に汚れを落としておきたいものです。

この部分の汚れを落とすのに効果的なのが糸ようじ、デンタルフロスです。むし歯になりにくい方でも、汚れを持続的にためていると、歯周病を進めてしまいます。海外では、”Floss or die”(” フロスかさもなければ死か ”)などと言われるほど、歯周病対策において糸ようじは重要視されています。

歯ブラシもそうですが、使い始めてから使い方に慣れるまで、いくらか時間がかかります。根気よく続けてみてください。

・歯間ブラシ

ブリッジ(歯がない所の両隣りの歯を土台として、橋渡ししてかぶせものをして噛めるようにする)の治療を行った場合、ブリッジの土台の内側には基本的に歯ブラシを当てたり、糸ようじを通したりすることができません。この様なところには歯間ブラシを使って下さい。使い方は、まず隙間に対し出し入れする際に抵抗が感じられるサイズの歯間ブラシを用意します。場合によってはいくつかの種類を用意する必要もあります。隙間に入れるときは歯ぐきを傷つけないようそっといれます。そして歯間ブラシを出してくる時にシュッと磨くようにします。くれぐれも力が入りすぎないようにします。

また、歯周病が進んで、歯の隣りあっているところの下のすき間が大きくなった場合にも効果的です。

いずれの場合も、あまり無理をしないようにしましょう。入りにくい場合は、無理に突っ込む必要はありません。

・口腔含そう剤(コンクールF®

お口の中を歯ブラシなどで物理的に清掃ができた後に薬剤でお口の中をすすぐのは効果があります。当院では特にコンクールF®をお勧めしています。含まれる薬効成分の中に、歯周病原因菌に効果的と言われている成分が入っています。

・スーパーフロス

かなりの長さの糸の一部分が、モールのように柔らかく太くなっているものです。ブリッジの下の面などを通常だと清掃できないような場所を一気に清掃するのに効果的です。

 


以上が、お口のお掃除の大まかな説明です。以上をきちんと実践できるだけでもかなりお口の清掃状態は保たれるはずですが、

  • 清掃の出来には個人差がある

  • 清掃の効果にも個人差がある

  • 個人では清掃ができているかどうか、判断に限界がある

などなどの理由から、定期的に健診を受けることをお勧めします。

健康なお口を維持して、いつまでも若々しく!

むし歯

◎むし歯のできるまで

お口の中には様々な菌が生息しています。この菌がいることで、私達は様々なバイ菌の感染から身を守られているのですが、むし歯や歯周病の原因となる菌は、まさにお口の中に存在します。

私達が普段栄養としている糖類(特に、砂糖)は、ミュータンス菌にとって格好の食材です。彼らは砂糖を分解して不溶性グルカンという、水に溶けず、ねばねばした、自分たちのねぐらを作り上げます。その中で他の菌とともに糖類を分解して生活し、副産物として酸を産生します。この酸が歯を溶かしてゆきます。少し溶けたくらいなら、私達は唾液成分で歯を修復することができますが、ねばねばした「歯こう(プラーク)」のような形で同じところにずっとたまっていてしまうと、歯は治せないくらいにどんどん溶かされていってしまいます。この状態が「むし歯」です。

◎むし歯になるとなぜ痛い?

歯の構造は、歯の痛みを感じる神経線維がありまた歯の管理人と言える象牙芽細胞がある「歯髄」、その外側の「象牙質」、さらにその外側の歯が白く見える部分の「エナメル質」の3層構造です(根の方では、エナメル質の代わりにセメント質があります)。エナメル質は非常に硬い構造を持っていて、むし歯の進行も遅いです。鎧のような役割で、歯の内側への痛み刺激を遮断してくれています。このエナメル質が貫通するほどにむし歯が進行すると、象牙質に至ります。象牙質には細い管が無数に歯髄から伸びてきており、そこに刺激が加わると、痛みの刺激が歯髄まで届き、痛みを感じるようになります。

◎むし歯になったらどうする?

 むし歯菌に居つかれ、周りを酸によって柔らかく溶かされてしまった歯の部分はもう元には戻らず、ただむし歯原因菌の温床となるだけです。むし歯の治療では、基本的にこの悪くなってしまった部分を取り切るところから始まります。取りきって、むし歯によって失われた歯の部分の大きさや形態によって、詰めたりかぶせたりする物の形などを決めて行きます。詰め物やかぶせものをすることで、歯もかめるようになり、残った歯も守られます。むし歯の治療は怖いですが、放っておくとどんどん悪くなる一方(=削る量も多い!)です。早目の治療を心がけましょう!

 ずっと放っておいた結果、歯の根っこのみになってしまった時には、歯を残して使っていくことが難しいことが多いです。こうなると抜歯になってしまいます。

◎根の治療とは?

むし歯が歯の中の歯髄(いわゆる神経)まで達すると、直接刺激が伝わりものすごく痛みます。また、しばらくすると痛みを感じなくなりますが、それは歯髄の細胞が死んだ状態であり、どちらの場合も根っこの中にまで菌が入ってきており、このような状態の歯をまた痛みなく使っていくためにはこれに対する根っこの治療が必要となります。根っこの治療では、根っこの中を消毒して、最後にすき間のないように根の中に詰め物をします。こうして、根の中に出来るだけ菌が残らないようにします。

他にも予防的、便宜的に根っこの治療が必要な場合があります。

◎むし歯治療の後に気をつけること

むし歯の治療をしたところは、その境目にむし歯を作りやすいです。もともとお口の掃除ができていないからむし歯になったので、そこが弱点で又むし歯を作る可能性は高いです。自分の弱点だと自覚してしっかり清掃しましょう。

また、根っこの治療までした歯は、元の歯に比べると弱っているとよく言われます。治療していない歯に比べると、そのうちに根っこが割れてしまうこともよくあります。むし歯で削ってしまった歯は元には戻りませんから、大事に手入れをして無理をせず使っていきましょう。

◎むし歯ではないけど痛い、しみるのは?

多くの人は年齢とともに人のお口の中の歯ぐきは少しずつ下がってきます。歯ぐきが下がると、若いころは隠れていた、歯の根っこの方の象牙質が露出してくることがあり、ここに風や冷水などの刺激が加わるとむし歯と似たような原理で痛みを感じます。いわゆる「知覚過敏」です。この様な症状は壮年期の女性に多いです。特効薬はありませんが、対処法がありますので、お悩みの方は一度ご相談下さい。

入れ歯

◎入れ歯の役割

入れ歯は、歯がなくなった時に歯の代用物としてお口の中に入れて、噛むことや発音に重要な役割を果たします。また、きれいな白い歯を入れたり、唇を内側から膨らませるように支えて、顔貌を若々しく見せるという大事な役割もあります。

現代では、インプラントを用いた治療法が広まり、入れ歯を用いなくても噛める治療が出来るようになりました。ですが、費用の面でインプラントが難しい場合や、身体の健康上の理由などで取り外しができる方が良い場合など、まだまだ入れ歯は医療の上で欠かすことのできない存在です。

◎入れ歯の手入れは大事?

必ず、1日1回は、お口からはずして入れ歯を磨きましょう。その時は、ブラシに歯磨きペーストは付けずに、お水を流しながら磨きましょう。その後、入れ歯洗浄剤に浸けることもお薦めです。磨かないでおくと入れ歯の表面は、細菌やカンジダ菌というカビの1種が増殖して不潔になります。また、入れ歯に接している自分の歯は非常に汚れがたまりやすいので、残っている自分の歯の歯磨きもとても大事です。

◎様々な入れ歯の種類について

入れ歯は、食事中にはずれたり、人とお話し中に落ちてきたりしないように、ピチッとお口の中に収まるように工夫されています。保険の入れ歯は、通常、残っている自分の歯にバネをかけて支えます。自費の入れ歯では、バネを見えにくくしたりバネ以外の仕組みではずれないようにしたり、入れ歯らしく見えないように工夫することができます。

自費の入れ歯の種類を少しご紹介します。なお、お勧めできる方法はお口の中の状況によって変化しますので、どのような方法が適するのかは、直接ご相談下さい。

・金属でできた入れ歯(金属床義歯)

DSCN2334

入れ歯のフレーム(骨組み)を金属で作成し、その上にプラスティックを介して人工の歯を並べた入れ歯です。骨組みが金属のため、薄く作ることが可能で、変形や破損が起こりにくいのが特徴です。作成には手間と費用がかかるため、保険診療では行えず自費診療となりますが、保険診療に比べて使用できるバネの種類もバリエーションが増えて、入れ歯の設計にさまざまな工夫を加えることができます。

・入れ歯がはずれない工夫(アタッチメント義歯)

入れ歯の動きを抑える目的で、ご自身の残っている歯や人工歯根(インプラント)に入れ歯を固定するための装置を取り付ける方法があります。磁石を利用したもの、装置にはめ込むタイプのもの、棒状の土台に固定していくもの、またこれらを組み合わせたものなど、いくつかの方法があり、ケースに応じてご提案できる場合があります。

RIMG0727a

上の写真の例は、ご自身の残っている歯の根を磁石の固定先として利用しています。

◎入れ歯が合わなくなったら

長く入れ歯を使い続けていると、入れ歯の噛む面はだんだんとすり減っていきます。すり減る速度には個人差がありますが、短い人だと半年でトラブルを抱えて調整が必要となってくることがあります。

また、年々入れ歯を支えるあごの土手は少しずつ形を変え、入れ歯を作った当初はピッタリだったものが、気付くと合っていなかったりするものです。合わない入れ歯をそのまま使っていると、入れ歯が動いて土手がこすれて痛くなったり、噛んだとき残っている自分の歯にとても強い負担がかかって駄目にしてしまうことがあります。

こういったトラブルが起こる前に、新しい入れ歯に作り直したり、すり減ったところや形の合わないところを修理する必要があります。ちょっとおかしいな?と思ったら、すぐに歯科医院で入れ歯をチェックしましょう!

インプラントのお話

インプラントに興味のある方、心配のある方がいらっしゃると思います。歯科インプラント治療とはどういうものか、ご紹介してみようと思います。

デンタルインプラント治療は世界的に行われている治療法で、歯のないところをかめるようにする「補綴治療」の手段として非常に有効な治療法です。

世の中には様々な考え方があるため、歯科の先生によっては考え方が違ってくることも出てくるであろう点をご了承ください。

<どういう治療?>

歯のなくなったところに人工の土台を骨に植え込み、人工の歯の支えとする治療法です。

土台とするインプラントの形態は、さまざまなものが考案され、そして多くのものが消えてゆきました。現在インプラント治療で使用されているものは、歯の根の形にねじ切りがついたような「人工歯根タイプ」がほとんどです。

土台のインプラントの材質にもさまざまなものが使われましたが、現在使われているものは「チタン」「チタン合金」が多いです。

現代のインプラント治療は、チタンを骨内に埋め込んでも、体が拒否反応を示すことなく、チタンに密接して骨が治癒する現象(「オッセオインテグレーション」と呼んでいます)を利用しているものが多いです。

その他、セラミックスの材質のものや、チタンのインプラントの表面が骨との親和性の高い材料で膜状に覆われているものもあります。

<元の自分の歯とはどこが違うの?>

天然の歯も、インプラントも、骨に支えられて植わっている点は 変わりません。天然の歯は骨との間に軟らかい線維質の「歯根膜」というものが存在します。そのため、歯はかみ合わせると少し沈むのです。一方、インプラントは骨との間に歯根膜のようなものがなく、直接骨に接しています。そのため、インプラントはかみ合わせた時もほとんど沈みません。

また、歯根膜にはかむ力が加わったときに感じる神経が存在します。そのため、かみ合わせると「今、私はかんでいる」と感じることができます。一方、インプラントはそのような神経がないため、かんでいることを感じるのは周りの自分の歯か、かみ合わせている向かいの歯で感じます。歯が全くない場合でも、あごの関節や噛む筋肉などで感じることができます。

かんだ時の動き方や感じ方が元の歯とは違っているのです。

<どんな種類があるの?>

インプラントというと元の歯に似せて人工の歯を作るイメージが強いかもしれません。実際にはそのような使い方以外にも、取り外しのできる入れ歯の支えに使う場合もあります。状況に応じて、より良い上物を選択することが大事です。

<治療期間?>

インプラントの治療は他の歯の治療と比べると長い時間が必要になります。なぜならインプラントが骨の支えを得るためには、インプラント周りの骨が壊されて新しく作り変えられる必要があり、この「代謝」は徐々に進んでいくためです。人間の体の骨は半年で中身がすべて入れ替わっている、という話があります。そのくらいのスピードで、人間の体の骨は壊されると同時に徐々に新しく作り直されているのです。

近年では、インプラント治療の進歩とともに、条件はありますがさまざまな工夫により即日でインプラント上部の人工の歯を作る治療法も出てきました。ですが、インプラントが骨に固定されるしくみは変わるわけではないのです。

<費用?>

インプラントは、ガンなどの理由であごの骨を切り取ってしまったのちに再建した場合など、ごく限られた場合を除けば保険がききません。そのため基本的に自費の治療となってしまいます。また、きちんとした治療を行うためにはどうしても手間がかかるため、インプラント治療は高額となることが多いのです。(参考:当院では1歯473000円です。歯数が増えると1歯あたりの費用は下がります)

文章ばかりになってしまいましたが、すこしでもインプラント治療のイメージのお役に立てれば幸いです。

最後に…どんな病気でも同じなのですが、治すのは最後はご自身の元気と意識にかかってくるのです。

★親知らずについて

親知らずとは、前から数えて8番目の歯のことです。

一番奥の奥歯で、第1大臼歯(6歳臼歯)、第2大臼歯(12歳臼歯)の後ろなので第3大臼歯と呼ばれます。口の中に生えてくる時期も10代後半と遅く、親知らずの名前の由来ともなっています。また、親知らず自体がまったく存在しない人もいます。親知らずがあっても口の中に顔を出さないこともあります。親知らずがあるのかないのかはお口全体のレントゲン写真を取ることでわかります。

現代では親知らずが正常に生えて来ない人も多く、また親知らずがなくても、食事がしにくいなどで困ることはあまりありません。

◎親知らずは抜いたほうがよい?

よく、親知らずを抜いたほうがよいという話を聞きます。なぜでしょうか?

①正常に親知らずが生えている場合

正常に親知らずが生えて、上下でしっかりかんで問題のない場合は、特に親知らずを抜く必要はありません。しかしこの場合でも、親知らずがむし歯になった場合など、一番奥の、物の届きにくい場所のために治療が難しく不確実になるため、抜歯が選択肢となる場合があります。奥まっているために、うまく清掃ができずに不潔となり、親知らずだけむし歯が進むケースもよくあります。

②親知らずが変な方向に生えている場合

変な方向に生えて、お口の中に頭を出しているような場合、あまり歯本来の仕事はしていないばかりか、親知らず周りのお口の清掃が大変だったりします。清掃がしにくい結果、周りの歯をむし歯にしてしまったり、親知らず自体が痛む(「智歯周囲炎」)になったりします。

この、親知らず自体が痛んだ場合、基本的には薬で症状を抑えることが多いのですが、放置してしまうと心臓の周囲にまで膿が落ち込んでしまう場合があり、こうなると命の危険にかかわる事態にまでなってしまいかねません。

そのため、そんなことがないようにあらかじめ抜いてしまったり、一度はれたことがあれば、おさまっているうちに抜歯しておく、という選択肢があるのです。まれに、忙しい肝心な時にものすごい腫れ上がる、というケースがあります。そのため、「就職で忙しくなる前に・・・」「仕事が忙しくなる前に・・・」「妊娠・出産などの予定の前に・・・」と、時間ができた段階で抜歯をお勧めすることがあります。

③親知らずが生えてきていない場合

親知らずがあごの骨の中に埋まっている状態であれば、親知らずが痛むことは考えにくいです。それでも親知らずがいずれ生えてきたり、隣の歯を押すという可能性や、親知らずが骨の中で大きな袋を作る場合があるなどの理由で親知らずを抜いておいたほうがいい、という考えもあります。

◎親知らずを抜かないほうがいい場合

何かとトラブルの元になるのであれば、親知らずはすべて抜いたほうがいいと考えてしまうかもしれませんが、抜くことがトラブルになることもあるのです。

親知らずの根元付近には血管と神経の管が走っていて、人によってはまれに親知らずの歯の根がその管に触れていたり、はたまた抱え込んでいる場合などがあります。この場合に無理に親知らずを抜いてしまうと、あごのあたりのしびれなどのトラブルになることがあります。

状況によってはそれでも抜いたほうがよい場合もありますので、抜かないほうがいいとは一概には言えませんが、親知らずを抜くと決めた時、どのような危険があるのかを把握したうえで抜いてもらうのがよいでしょう。

★歯周病について1

◎サイレントディジーズ

歯周病はよく、「サイレントディジーズ」と言われます。

子供のころや若いときからむし歯になった人は、歯医者で歯をしっかり磨くように言われて、多かれ少なかれ歯を磨く習慣を身につけます。

世の中とは不公平なもので、子供のころ、若いころからむし歯に苦しむ人たちがいる一方で、どんなに歯を磨かなくても少しもむし歯にならない人たちが存在します。遺伝や免疫などいくつかの原因は考えられますが、生まれつきむし歯になりにくい人がいるのです。このような方は、歯は硬く、ほとんどすり減ってこないことが多いです。

むし歯にならない人は、磨かなくても困らないので、年齢が上がってきても歯を磨く習慣がなかったりします。このような人は、とくに歯周病に要注意です。

歯を磨かなくても若いうちは体の抵抗力も元気なので、遺伝的な問題がなければ重い歯周病となることはほとんどありませんが、年齢が上がるとともに歯周病は徐々に進行していきます。歯医者に行く習慣もなく、痛みもなく、気付いた時には自分の歯が全部揺れていて、歯周病が重く進行してしまっていることがあるのです。それゆえ歯周病は「生活習慣病」であり、また「サイレントディジーズ」、静かに進行する病気といわれるのです。(ただ、世の中やはり不公平で、ごく稀にむし歯にも歯周病にもなりにくい人もいるのですが・・・・・・)

不幸にして歯周病が進行してしまっているとしても、思い立ったが吉日! 気づいた時から歯周病対策を始めていきましょう。

★歯周病について2

◎歯周病の原因?

むし歯も歯周病も、原因は歯についた食べかすなどの汚れにお口の中の菌が繁殖してできた菌の集合した「プラーク」が原因です。

むし歯の原因となる菌と歯周病の原因となる菌は、種類も性質も違います。歯周病の原因菌は、空気に触れないような環境で活動し、歯を支えている構造を徐々に壊していきます。

プラークにカルシウムなどが沈着して石のように硬くなったものが「歯石」です。歯石は硬いので、一度作られてしまうと歯ブラシでは取り除けません。

◎歯石を取る理由

歯周病の予防のためによく歯石を取り除く処置を行います。なぜでしょうか?

歯石自体が直接何か悪さをするわけではありません。歯石は非常に取り除きにくいので、歯石の周囲にはプラークが付着しやすくなり、さらに空気に触れにくい環境を菌に提供します。

原因の温床を取り除くために、歯石を取り除くことが大事なのです。

◎歯周病の進行と歯石の関係

歯周病が進行してしまった場合、歯と歯ぐきの境目の溝(「ポケット」)が深くなることが多いです。この時、お口の中を目で見ただけでは、歯ぐきはさほど下がっておらず、十分な歯の支えがあるように見えます。一見するとさして歯は悪くないように感じるかもしれません。実際には内側の骨の支えはだいぶ下がって少なくなっており、外側の歯ぐきが菌に対抗するために腫れあがって壁のように高くなっているだけだったりすることもしばしばあります。深いポケットの中には空気に触れない環境でいっぱいです。このような状態でポケットの中に歯石が存在する場合、歯周病は極めて危険な状態と言えるでしょう。歯周病原因菌にとっては、夢のような環境です。

◎歯周病が進行したときの“傷口”

もしも、歯は失っていないが、お口の中全体的に重い歯周病にかかっている場合、なんと常にお口の中に手の平ぐらいの大きさの傷口を負っていることになります。このような状態が体にとって良くない状態であることは、なんとなく想像できるのではないかと思います。

◎進行した歯周病の治療

お口の中で全体的に進行した歯周病の治療は、かなり厳しくなります。失われた骨の支えは、治せる場合もありますが、治らない場合も多いです。歯を失った場合に、失う前に比べた生活の質の低下や、歯を失った部分の歯を補う治療(入れ歯や、インプラントです)の費用は大きく付きます。頼みのインプラントも、歯周病が重く進行してしまったケースでは固定するための骨が少なく、困難な症例となることも多いのです。

歯周病は予防がとても大事な生活習慣病であるといえます。歯周病は40代、50代60代・・・と年齢を重ねるごとに進行する傾向があります。今は大丈夫でも・・・定期的なメンテナンスを若いうちから習慣づけることで歯周病予防を管理していくことをお勧めします!

★歯周病について3 歯周病への対応

歯周病の治療を始めるにあたっては歯周病の進み具合を知る必要があります。

歯を支えている骨がどの程度あるのかを知る方法として、

 ・レントゲンの写真での骨の状態の確認

 ・細い棒を歯周ポケットに入れ込んで、歯周組織の状態の確認

を行って確認します。歯石を取る際の歯ぐきの反応でもある程度分かります。

進行してしまった歯周病の治療はさまざまなものがあります。

しかし、治療の目標として根本的な考え方は、

「歯と歯ぐきの間のポケットの歯周病原因菌とその住みかをできるだけ取り除く」

「きれいになったポケットが清潔に保ち続けられるようにする」

事だと思います。

さらに、若い頃に比べて歯を支えてる骨の量も少ないですので、無理な力で残りの骨がダメにならないように、かみ合わせにバランスを持たせることが大事です。

歯周病の原因を改善するために

①プラークや歯石の除去

歯の根っこに付いた歯石や汚れ、歯ぐきの内側のポケットの治りの邪魔になる良くないお肉を取り除きます。

場合によってはそのために麻酔の上で歯ぐきを切り開いて、よく見える状態で行う場合もあります。

②過剰な力が一部分に集中しないように

前歯などで、 お隣同士を連結して固定したり、歯が失われたところに入れ歯やブリッジ、インプラント等でかみ合わせを確保します。

噛んだ時の力が、一か所が集中して仕事をせずに、なるべく分散するようにコントロールします。

インプラントを行う場合は、周りの歯の歯周病の状態が良くないと、周囲の歯が動くなどですぐに状況が変化してしまいやすいです。

インプラントやブリッジの治療を行った後に、治療の経過が安定しない原因の一つです。

歯周病が進行している場合は特に、治療の計画にも、治療後の管理にも十分気を付ける必要があります。

③清潔なお口の環境を保つために

健康なお口を維持するためには、最後はご自身のお口のお手入れ(セルフケア)にかかってくるといえるでしょう。

現代ではお口のケア用品も電動歯ブラシ等をはじめ、さまざまに充実してきています。

お口のお手入れをどのような器具でどうすればよいか、わからない方はお気軽にご相談下さい!

歯周病の予防、進行を抑えるには、歯みがきによるセルフケアと、セルフケアで対応できないところを含めた定期的なプロケアを持続することが大事です。

進行した歯周病は治療が困難なことが多いです。

歯周病が進行する前に、予防のセルフケア、定期的な歯のチェックをお勧めします。

インプラントのお話2 ~治療後の定期的なチェック~

インプラント治療は歯を失った所にしっかりした支えを作ってかみ合わせを回復する治療として優れた治療法の一つです。

インプラントの治療が終わると、治療終了となり、ホッとしてしまって歯科から遠のいてしまう人もいらっしゃるかもしれません。

しかしインプラントの治療終了後には、定期的にチェック(メインテナンス)を受けることがとても重要です。

定期チェックを受けないと

インプラントは基本的に骨に強固に連結された後は、基本的に動くことはありません。

ところが、ご自身の歯が残っている場合、歯は少しずつ動いたり、治療を受けたりすり減ったりなどでかみ合わせが変化することがあります。

その結果、はじめのうちは平気でも、数年後には気づくとインプラントの部分だけ強く噛んでいた・・・ということも起こるのです。

もしこのような事態が起きていると、インプラントをダメにしてしまう危険が高いと言えるでしょう。

また、仮にインプラントがダメージを受け、支えている骨がどんどん失われるような事態が起こっていても、当の本人は痛み等を感じにくいのです。

何かがおかしい、と違和感に気づいた時にはインプラントが脱落寸前だったりします。

トラブルを未然に防ぐためにも、インプラント治療を受けた後には定期的なチェックが重要です。

メインテナンスはどこで受けてもいい?

定期的なチェックは、基本的にはインプラント治療を受けた医療機関で行うことが望ましいです。

インプラント治療に使った材料の種類や、治療時の状況をよく把握しているからです。

ですが、様々な理由でインプラント治療を受けたところで定期チェックを受けられない場合もあるでしょう。

こうなると、すでにお口の中に存在するインプラントについて、責任を持ったチェックは難しくなりますが、それでも信頼できる医療機関で継続してチェックを受けるようにするのがよいでしょう。

定期チェックは何をするの?

定期的なチェックでは、セルフケアできちんと清掃ができているか、かみ合わせの異常の有無、上部構造の固定のチェック(ねじが緩んでいたりする)、インプラント周囲の粘膜等の異常の有無、レントゲン写真によるインプラント周囲の骨の状態、等をチェックします。

異常が見つかれば、すぐに対処するようにします。

周囲の歯や、お口の機能・動きと協調できているかどうかが重要です。

診査のポイントが天然の歯と少し変わりますが、定期的なチェックが重要な点は変わりません。

 

手間をかけたインプラントですので、うまく管理して長く使えるよう、定期的なチェックを受けましょう!

歯を失った後の対処法

歯を失ったとき、そのまま何もしないでいると周囲の歯がどんどん悪くなっていく、という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。

周囲の歯並びが悪くなったり、歯の数が減少した分、周りの歯の一本ごとの負担は増加します。そうしてどんどん歯をドミノ倒しのように失わないためには、歯を失ったところを補う治療が必要となります。失った歯を補う治療(「補綴治療」)には、従来からの方法、新しい方法、といくつか選択肢があります。

失った歯に対して、インプラント治療という方法があることは聞いたことがあると思います。インプラント治療には大きな期待と、失敗やトラブルなどの大きな不安が混じっていると思います。

インプラントに向いている、向いていないと言われた、という話を時々耳にします。インプラント治療には長所とともに短所もあり、 リスク、見た目や将来の状況までを考えると、ケースによっては必ずしもインプラント治療が最善の治療とは限らないのです。

歯を失った時、どんな治療法が考えられるのでしょうか。考えられるそれぞれの治療法の特徴について説明させていただこうと思います。

下の絵のように歯の列の途中の一本の歯を失ったときを例として説明していきます。

natural_teeth_bridge_case_1

失った歯を補う方法には、

 ①ブリッジ

 ②一本の入れ歯

 ③インプラント

と3つの方法があります。また、

 ④放置

することも選択肢となる場合があります。

①ブリッジ

natural_teeth_bridge_case_1 ⇒ natural_teeth_bridge_case_2 ⇒ natural_teeth_bridge_case_3

両隣の歯を土台として橋渡しをするようなかぶせ物を作ってなくなった歯の部分を補います。

利点として、噛んだりした時も自分の歯で噛むので違和感が少なく、シビアなケースを除けば見た目も問題になりにくいことが多いです。治療の期間も相対的に短いです。

欠点としては、両隣の歯を大きく削り込む必要があるため、両隣の歯が健全な歯でもたくさん削る必要があります。また、3本分の力を2本の歯で支えるので、同じ力がかかった場合には、単純に考えると一本あたりの歯が負担する力は増加します。両隣の歯の負担が増え、それが原因で隣の歯もダメになる危険があります。少ない歯で多くの部分をカバーするようなブリッジは、噛む部分の崩壊のリスクが高いです。

②一本の入れ歯

取り外すタイプの人工の歯を取り付けます。

利点としては、侵襲も少なく、完成までの治療期間も相対的に短いです。また、嫌になったらすぐに取り外せ、外した状態で清掃しやすい点が入れ歯の最大の特徴です。歯を失ったときに、あらゆるケースに対応することができます。

欠点は両隣の歯に引っかけるバネが非常に目立ってしまうことです。また天然の歯に比べて余計な部分が多くついていて違和感は大きめです。保険外では、金属のバネの部分を樹脂の材料にかえて、見た目は改善できるものもあります。噛む力としてはブリッジに劣り、両隣の歯に負担をかけてしまう点は変わりません。また、取り外し式であるのが嫌な人には向きません。嘔吐反射が出てしまう人は使用が困難であることが多いです。

③歯科インプラント(人工歯根)

natural_teeth_bridge_case_1 ⇒ single_tooth_tl_2 ⇒ single_tooth_tl_4

両隣の歯に手を付けずに(周りの歯を削ったりせずに)骨に固定された新しい人工の土台が得られる点が大きな魅力です。周囲の歯の負担を減らす選択肢としてかなり魅力的です。ブリッジでは対応が困難なケースでの、固定性の(取り外し式の入れ歯ではない)選択肢としても、(費用は掛かりますが)貴重な選択肢です。

他の2つの治療法と比べて、治療期間が長く治療回数がかかります。費用は高額です。また、歯ぐきを切って骨を削るといった、外科的な処置が必須になります。

何より、骨の中に人工の歯の土台を埋め込むので、極端に骨が吸収されて少ないような部位などでは、危険の高い選択となってしまいます。CT検査など、十分に治療計画を練り、準備をして進めることが大事です。

④放置する(何もしない)

何もしない場合とは、一番奥の歯(親知らずや第二大臼歯)をなくしたときには選択することが多いです。

まれに中間の歯を失ったときにも放置することがあります。通常、放置すると周囲の歯は隙間を埋めるように上下の歯が動いてかみ合わせに悪影響が出るため、放置してはいけないのですが、そのような影響が少ないと考えられるほど隙間が小さかったり、歯の列から大きく外れた歯を抜いたような場合には放置することも考えられるでしょう。

jawbone_1 ⇒ jawbone_2

基本的には上の図のように、ゆっくり時間をかけて歯の移動が通常起こるので、放置はお勧めできません。

上記の例でご説明したような各治療法の特徴は、失った歯の数や場所などによって選択のメリット・デメリットがかなり変わってきます。ブリッジやインプラントは選択できない、選択しないほうがいい場合があります。どのような治療法が良いか、長く使えるのか・・・、条件と比較して慎重に選択しましょう。

最後に・・・、歯を失ったとき、隣り合った歯の面など、清掃のときに気をつけなければいけない場所が増えます。これは意外と盲点で、怠れば失った歯の隣の歯を早くダメにする原因となります。

ブリッジ治療を行った時には橋渡しの下の土台の付け根を歯間ブラシ等で清掃する、入れ歯の場合は入れ歯の接している歯の横の面も忘れずにブラシを当てるなどしてしっかりとお手入れしましょう。

失った歯を補う治療というのは、よく噛めるようになる治療であり、それは残った歯を守るための治療でもあるのです。お口の健康を維持できるよう、しっかり管理していきましょう!